家族葬とは、故人様のご家族やごく親しい方々だけで行う小規模な葬儀のことを指します。参列者の人数は10~30名ほどが一般的で、一般葬に比べて規模が小さいため費用を抑えやすく、落ち着いた雰囲気のなかでゆっくりとお別れができる点が特徴です。
「家族葬」という呼び方から血縁者だけを想像しがちですが、必ずしもそうではありません。故人様やご遺族の意向により、生前に親しかった友人や知人が参列することもあります。つまり、誰を招くかは自由に決められるのです。
よく似た言葉に「密葬」がありますが、こちらは身近な人だけで葬儀を行った後に、改めて多くの方を招いて「本葬」を営むケースが多いのに対し、家族葬はそれ自体が本葬となる点に違いがあります。
また、家族葬の場合は訃報を公にせず、参列をお願いする方へ個別に声をかけるのが一般的です。そのため、招かれなかった方が無理に参列するのはマナー違反とされ、ご遺族にとっては参列できなかった方々への配慮も大切になります。
世間体にとらわれず、故人様らしい形で見送りたいと考える方にとって、家族葬は柔軟で心のこもったお別れの場をつくることができる葬儀スタイルといえるでしょう。
すでに述べた通り、家族葬の場合は「残されたご家族が声を掛けた人」しか参列できません。
そのため、基本的には会社関係の人や地域の人などは参列しないことになります。
ただ、家族葬に呼べる範囲は明確に決まっているわけではありません。
たとえば「同居している家族のみしか参列しない家族葬」もありますし、「本人にとって3親等までの人が参列する家族葬」もありますし、「大勢の友人を呼んで行う家族葬」もあります。
家族葬で声を掛ける範囲について取り上げるとき、しばしば「〇親等までが基本」などのような表現をみることがあるでしょう。
しかしこれは絶対的な基準にはなりません。だれを家族葬に呼ぶかの判断基準は、血の濃さで決めるものではなく、故人様との親しさで決めるべきだといえるでしょう。
家族葬の流れ ~ご逝去から火葬・収骨まで~
家族葬は、参列者を家族や親しい方々に限定した小規模な葬儀ですが、基本的な流れは一般葬とほとんど変わりません。ここでは、初めて家族葬を経験する方でも安心できるよう、日ごとの流れと準備のポイントをわかりやすく解説します。
ご逝去後はまずご遺体を安置します。病院で亡くなった場合は霊安室に安置され、その後、自宅や斎場の安置室へ搬送します。自宅での安置が難しい場合は、斎場や保管施設を利用できます。この段階で葬儀社に連絡し、葬儀日程や会場、費用、形式について打ち合わせを行います。また、参列してほしい親族や身内への連絡や、死亡届の提出もこの時点で進めます。葬儀社が代行してくれる場合もあります。
ご遺体は湯灌や清拭、死化粧、死装束を施したうえで棺に納めます。湯灌とは、故人様様の身体を清め、あの世への旅立ちの準備を整える儀式です。納棺の際には、故人様が生前好んでいた品物や花を一緒に棺に入れることもできます。
通夜は通常夕方から行われ、僧侶による読経の後、喪主や参列者が焼香を行います。家族葬では参列者が少ないため、受付や喪主の挨拶を省略することもあります。通夜後には、希望に応じて「通夜振る舞い」と呼ばれる食事の時間を設けることもあります。
翌日は葬儀・告別式が行われます。式では読経、焼香、弔電の奉読などを通じて、故人様との最後のお別れの時間を持ちます。小規模な家族葬では、参列者全員で棺を霊柩車まで運び、出棺直前に喪主が挨拶するのが一般的です。
出棺後は火葬場へ移動し、火葬が行われます。火葬は約1時間ほどかかります。その後は収骨(お骨上げ)を行い、箸でご遺骨を骨壺に納めます。火葬場に同行するのは直接の家族や親族が中心です。
火葬後には「精進落とし」と呼ばれる食事の時間があります。葬儀会場やレストラン、ホテルで行われることが多いですが、小規模な家族葬では行わずにそのまま解散することもあります。
家族葬は、一般葬と同じ流れを基本としながらも、参列者の範囲や儀式の規模を柔軟に調整できます。参列者が少ない分、時間や手間の負担が少なく、落ち着いた雰囲気の中で故人様を見送ることができます。また、直葬や一日葬などの選択肢もあり、ご遺族や故人様の希望に応じて最適な形で葬儀を執り行うことが可能です。
家族葬は、親しい家族や親族だけで行う小規模な葬儀です。一般葬と比べて費用を抑えられる傾向にありますが、葬儀の内容自体はほぼ同じです。ここでは、家族葬にかかる費用の内訳や平均相場、人数別の事例、費用を抑えるコツをわかりやすくまとめました。
家族葬の費用は、大きく分けて以下の要素で構成されています。
①葬儀一式の費用
葬儀社への支払いで、祭壇費用、棺、遺影、霊柩車、火葬手続きなどが含まれます。
参列者が少ないため、一般葬よりも比較的安く抑えられます。
目安:50万~100万円
②火葬費用
火葬場の利用料で、自治体や公営・民営により異なります。
公営火葬場:1万~5万円程度
民営火葬場:やや高め
③会場使用料
自宅や小規模式場を利用する場合が多く、費用は0~10万円程度。
式場を借りる場合は20万円を超えるケースもあります。
④お布施
僧侶への謝礼。人数や位によって変動します。
火葬式のみ:5~15万円
通夜・告別式あり:20~50万円
位の高い戒名を希望する場合、100万円程度になることもあります。
⑤返礼品・飲食費
参列者への返礼品や食事にかかる費用。
家族葬は人数が少ないため比較的少額になりやすいです。(5千円~数万円)
家族葬:およそ50万~100万円
一般葬:家族葬より30万~40万円程度高い
家族葬が安くなる理由は、通夜振る舞いや精進落としなどの食事会が省略でき、会場使用料も抑えられるためです。
◆10人規模の家族葬
葬儀社費用、会場使用料、飲食接待費を含め、約30万~40万円
◆20人規模の家族葬
参列者増加により費用も増えるが、50万~60万円程度
いずれも、祭壇設置や装花などが含まれ、費用の透明性が高いといえます。
①規模を小さくする
親族や親しい友人に限定して参列者を減らすことで、会場費・飲食費を削減
②シンプルなプランを選ぶ
必要最低限のサービスのみを含むプランを選ぶ
③会場を工夫する
自宅や公共施設の利用で会場費を抑える
④葬儀社と相談する
希望や予算に応じたプラン提案を受ける
直葬(火葬式):火葬場でのお別れのみ、費用10万円程度
一日葬:通夜を省略して葬儀・告別式のみ、費用30万~50万円
2日間にわたる葬儀で参列者が多い場合:100万円近くになることも
家族葬は、親しい人だけで心静かに見送れる葬儀の形として人気があります。費用の透明性が高く、プランの選択肢も多いため、希望や予算に合わせて柔軟に対応できます。葬儀を検討する際は、事前に葬儀社と相談して明確な見積もりをもらうことが大切です。
家族葬は葬儀後、近親者に挨拶状を発送することが基本になります。
忌明けがひとつのタイミングになります
※忌明けとはご遺族が喪に服す期間を終えることで、仏教では四十九日忌を最初の忌明けとしています。
故人様や遺族の友人、知人、職場関係者、故人様と年賀状のやり取りを行っていた方 等
◆故人様が亡くなったことを伝える
◆家族葬として執り行ったことのお詫び
◆お花・不祝儀・供物を辞退する旨
◆生前お世話になったことへの御礼 など
挨拶状の書き方については下記コラムにて、例文付きで詳しく解説しています。
おくりびとのコラム
家族葬に関連した葬儀スタイルとして「密葬」と「一日葬」があります。
密葬も故人様の身内やごく親しい人のみで行われる葬儀です。
しかし家族葬と違い密葬を行った後、本葬やお別れの会を行うことになります。
一日葬とは通夜を省き、葬儀・告別式・火葬を一日で執り行う葬儀スタイルです。
一日葬は時間的負担が軽く済むことがメリットとなります。
しかし仏教では通夜・葬儀・火葬の流れを重視するため菩提寺の許しを得られない場合があるので注意が必要です。
したがって一日葬を検討する際は、菩提寺などに事前に相談をしたほうがよいでしょう。
「近年人気」「メリット」は分かったけれど、一般葬とは具体的にはどう違うのでしょうか。
家族葬と一般葬、基本的な流れには違いはありません。1番の違いは、葬儀開催の人数です。
♦家族葬:家族葬は、ごく親しい方のみの少人数でお別れをする葬儀になります。
※ご葬儀に参列できなかった方から「葬儀に参加したかった」と言われることや、ご葬儀の後にご自宅に弔問される方がいらっしゃることがあります。
♦一般葬:故人様とご縁のあった方々、近所の方々など、幅広くお呼びする葬儀。家族葬に比べるとしきたりを重んじた葬儀となります。
家族葬では参列者が限られるため、訃報の伝え方には細心の注意が必要です。
1. 参列を控える方への訃報
口コミで広まりやすいため、早めに「家族葬であること」を伝えましょう。
また、年配の方には「故人様の意向やご遺族の負担を考え、近親者のみで行う」と明確に説明すると安心です。
葬儀終了後は、参列できなかった方に「無事に故人様をお見送りしました」とハガキなどで報告しましょう。
2. 参列してほしい方への連絡
日程が未確定でも、参列してほしい方には早めに連絡が必要です。
「葬儀に参列していただきたい」という意思表示だけでも相手のスケジュール調整に役立つため、早めの連絡が大切です。
3. 香典を辞退する場合
家族葬では費用が抑えられるため、香典辞退が可能です。
香典を辞退するメリットとして、香典返しの手間を省き、家族の負担を軽減できることが挙げられます。
ただし、事前に周知し、相手を迷わせないようにすることが大切です。
当日受付に掲示したり、「お気持ちだけいただきます」と丁寧に断る方法もあるので、参考にしてください。
◆ 服装
一般葬と同じくブラックフォーマルが望ましいです。
男性:光沢のない黒スーツ、黒ネクタイ、黒い靴
女性:透け感のない黒ワンピースやアンサンブル、黒い靴
家族葬でも喪主は必要で、葬儀全体の責任者として以下の項目を管理します。
1. 葬儀の事前準備
ご臨終の通知(家族葬であること、香典辞退の有無を明記)
葬儀会社との打ち合わせ(会場、日程、予算、葬儀形式など)
2. 葬儀の準備・進行
通夜・葬儀・告別式の段取り
参列者が少ない場合は、喪主挨拶を省略するケースもあります。
家族葬では、規模が小さい分、訃報の伝え方や香典対応など、配慮が必要なポイントがあります。また、喪主は限られた参列者の中でも葬儀全体を滞りなく進める役割を担います。
◆訃報は早めに伝え、参列者を明確に
◆香典辞退は事前周知が望ましい
◆当日はブラックフォーマルで臨む
◆喪主は葬儀全体を管理
家族葬をスムーズに進めるためには、事前準備と周囲への丁寧な配慮が大切です。
参列する方が気を付けるべきマナー
一般的な葬儀では、訃報や葬儀の知らせを聞いたらできるだけ参列することがマナーとされていますが、家族葬は少し異なります。
家族葬では、ご遺族から参列をお願いされた場合のみ弔問する形の葬儀となっています。
香典や供花、供物については、家族葬ではご遺族の意向により辞退されることがあります。
参列の案内を受けた段階で、香典などの辞退が伝えられた場合は、香典などは持参しません。ただし、何も言われなかった場合は念のため用意しておくと良いでしょう。
ご家族から葬儀を終えたと連絡があるまで、家族葬に参列したことを口外しないようにしましょう。家族が休息を取り、落ち着く時間が必要な時期なので、家族葬に参列したことは報告されるまで口外しないのが適切です。
家族葬は親しい方々で行われるため、一般的な葬儀とは異なるお別れの形ですが、葬儀としてのマナーにのっとりながら、自由な形で行うことができます。
分からないことや不安な点があれば、葬儀社に相談することをおすすめします。
家族葬では一般葬とは異なり、訃報を受けたからといって必ずしも参列できるわけではありません。
葬儀の案内に「家族葬で執り行います」という文言がある場合、自分が親族以外の参列者である場合は、参列しないことがマナーです。家族葬では、家族の意向を尊重することが大切です。
参列できない場合、代わりにお香典や弔電を送りたいと思うかもしれません。しかし、香典や弔電、供花、供物を辞退する意思表示がある場合は、遠慮しましょう。
また、葬儀後に弔問をすることも考えられます。訃報のお知らせを受け取った後、「せめてお線香だけでも...」と思うこともあるかもしれません。
しかし、弔問やお香典辞退の文言がお知らせに記載されている場合は、遠慮するべきです。書かれていない場合でも、相手の状況を考慮し、「もしご迷惑でなければ」と相手の意向を尋ね、問題がなければ、弔問に伺いましょう。
家族葬においては、参列や弔問に関するマナーを理解しておくと親切です。
お葬式は、故人様との最後の別れの場であり、一度きりの大切な時間です。
後悔しないためには、家族葬を含むさまざまな葬儀形式の特徴を理解しておくことが重要です。
ここからは、家族葬のメリット・デメリットを詳しく解説します。
1. 費用を抑えられる
参列者が少ないため、一般葬に比べて葬儀費用を節約することができます。
香典の額も含めて収支のバランスを考えることで、無理のない葬儀が計画できるでしょう。
2. 自由な葬儀ができる
社会的なプレッシャーを気にせず、家族の希望に沿った葬儀が可能です。
花祭壇や音楽葬など、個性的で自由度の高い演出も選択肢の一つになるでしょう。
また、故人様の思い出の品を展示するなど、オリジナルの演出がしやすいこともメリットの一つです。
3. 料理や返礼品の自由度が高い
参列者が少ないため、葬儀社に依存せず家族の希望に合わせて準備することができます。
また、食事や返礼品をシンプルにすることで、費用をさらに抑えることも可能です。
4. 故人様と落ち着いてお別れできる
気心の知れた人だけが集まるため、参列者対応のストレスが少ないといえるでしょう。
思い出話をしながらゆっくり故人様と向き合える時間も十分にとれます。
5. 感染症対策にもなる
参列者を絞れるため、感染リスクを抑えやすいこともメリットの一つです。
特に高齢者が多い場面では、安全面に配慮した葬儀が可能といえます。
1. 親族や知人から反対されることがある
高齢者には馴染みが薄く、理解されにくい場合があります。
家族葬の利点や現代的な葬儀スタイルであることを丁寧に説明することが重要です。
2. 招待範囲の線引きが難しい
「誰を招くか」の判断が曖昧で、招待されなかった方が不満を抱く可能性があります。
そのため、葬儀前に事情を伝えることでトラブルを防ぐことが可能です。
3. 葬儀後の弔問が増えることがある
家族葬でお別れできなかった人が自宅へ弔問に来る可能性が高まります。
そのため、弔問対応や相続手続きなど、遺族の負担が増えることがあります。
弔問を断る場合は、葬儀の連絡時に事前に伝えると安心です。
4. 香典が少なくなる
参列者が少ないため、受け取る香典の額も減少します。
そのため、葬儀費用の自己負担が増える可能性があります。
予算に合わせて葬儀の内容を調整することが重要です。
家族葬は、ご家族の思いを形にできる自由度の高い葬儀です。少人数で行うため、費用を抑えつつ、故人様との最後の時間を落ち着いて過ごせます。
メリット:費用の節約、自由な演出、ご遺族の負担軽減、感染対策
デメリット:親族の理解が必要、招待範囲の線引きが難しい、葬儀後の弔問対応、香典の減少
形式にとらわれず、家族の希望や故人様の思いを反映できるのが家族葬の特徴です。費用や参列者、演出方法をしっかり検討して、後悔のないお葬式を選びましょう。