葬儀は、時間と手間とお金がかかるものです。
残されたご家族は、「家族を失った」という悲しみのなかで葬儀の準備を勧め、さまざまなことを決めていかなければなりません。しかも亡くなってから葬儀までに掛けられる時間は決して長くはなく、どれだけ長く見ても1週間、基本的には3日以内しかありません。
しかしこの「残されていくご家族が抱く負担」も、「旅立っていく人間」がしっかり準備することで、ある程度軽減ができます。
ここでは、「今からできる葬儀の準備」について解説していきます。
葬儀の準備を今から自分で行うことには、さまざまなメリットがあります。
もっとも大きいメリットは、冒頭でお話ししたように、「残していくご家族の負担を軽減できる」というものです。しかしそれ以外にも、「自分の理想通りの葬儀を実行できる」といったメリットもあります。また終活の一環として、葬儀の事前準備に取り組むことで、自分のこれからの生を見直す機会にもなるでしょう。
さて、日本でできる「生前に行える準備」としては、以下のようなものがあります。
♦葬儀社を決める
♦形式を決める
♦見積もりを取る
♦お寺などの情報を整理する
♦遺影を準備する
それぞれ見ていきましょう。
人が亡くなった場合、霊安室に何日間もご遺体を置いておくことはできません。
数時間程度でご遺体を病院から安置場所に運ばなければならないのですが、このときに自家用車を使ってしまうと、ご遺体が傷ついたり感染症に冒されたりする可能性が高くなります。
このため、早急に葬儀社を決めて依頼、ご遺体を運んでもらわなければなりません。つまり、極めて短い時間のなかで、葬儀においてもっとも重要なパートナーである葬儀社を選ばなければならないわけです。
このような環境下ではゆっくり葬儀社を精査することもできないため、事前に葬儀社を決めてエンディングノートに記しておくだけで、ご家族は非常に楽になります。
現在の葬儀社は、基本的には社葬にも一般葬にも家族葬にも直葬にも対応しています。ただそれでもそれぞれの葬儀社で得意とする分野は違うため、事前にいくつかの葬儀社に相談してあたりをつけておくとよいでしょう。
なお、特殊な葬儀の形態(「花祭壇を作りたい。自分の趣味の道具であったゴルフを、花を使って描き出したい」など)の場合は、この「葬儀社の決定」が必須となります。
葬儀の形態は、現在多様化しています。
♦もっとも小さな葬儀の形態である「直葬」
♦家族やご親族など特定の人だけを呼んで行い、かつ葬儀告別式のみとする「一日葬」
♦家族やご親族など特定の人だけを呼んで行い、通夜と葬儀告別式を行う「2日間にかけて行われる家族葬」
♦広く参列者を招いて行う「一般葬」
がその代表例です。
どの葬儀の形態にするかによって、予算も変われば声を掛ける範囲も変わります。現在は「小さな葬儀」が人気を博していますが、自分の交流関係の広さ(※交流関係が広いと、逆に小さな葬儀にすることでご家族が後日の対応に追われることもあります)を考えて決めていくとよいでしょう。
なおこの「形式を決める」と「葬儀社を決める」は、下記で紹介する「見積もりを取る」のタイミングによっては、順番が前後することもあります。
葬儀社と葬儀の形式によって、かかる金額は異なります。そのため、見積もりを取っておくことをおすすめします。
見積もりは、取るタイミングによってその意味が異なります。
かなり正確に「実際にかかる金額」が分かります。
葬儀費用を確保しやすくなり、勧誘電話などがかかってくる可能性を非常に低くできるのがメリットです。「この葬儀をしたいが、できるところはここしかない」「以前に使ってとても良かったところなので、私もここで」と思う人におすすめの方法ですが、「できるだけ安く抑えたい」という人には向いていません。
「同じようなプランで、値段がいくらくらい変わるか?」が分かるのが、この方法の一番大きなメリットです。
「費用を安く抑えて葬儀ができる葬儀社」を選定することができるのが最大のメリットです。また、「A社ではオプション扱いだが、B社では標準仕様のなかに組み込まれているもの」なども把握しやすくなります。ただし、この方法の場合は複数の葬儀社にあたる必要が出てくるため時間がかかりますし、勧誘の電話がかかってくる可能性もあります。
見積もりを取ることは大切ですが、「より自分に合ったタイミングで取ること」が必要だといえるでしょう。
ちなみに海外では、生前にお金までを振り込んでしまう「生前契約」のスタイルも広く知れ渡っています。ただし日本では、「プラン決め」「葬儀社の会員になる」までは行っても、生前契約にまで至ることはほとんどありません。「とにかく金銭的な負担をかけたくないので、生前契約をしておきたい」ということであれば、「生前契約ができる葬儀社」でまずはソートをかけることをおすすめします。
お寺や教会など、自分が所属している宗教施設の情報を整理しておくことも、ご家族の負担の軽減に繋がります。
菩提寺があるのであれば菩提寺の情報を記しておきましょう。またその際には、「どんな宗派か」「そのお寺の墓地にお墓があるのかどうか」についても合わせて記載しておくとよいでしょう。
なお、「無宗教で葬儀をしてほしい」ということであれば、その意思をエンディングノートに書いておきます。
遺影は、その人が亡くなった後にご家族がもっとも多く目にすることになる写真です。
また、遺影にするための写真は、本人が亡くなった後にご家族が探して用意することになります。このような手間を軽減するために、事前に遺影を撮影しておくという方法もあります。
事前に遺影を作るのであれば、写真家・写真館などに頼むとよいでしょう。プロの手による撮影ですから、一般的な写真よりもぐっときれいに写ります。なお現在は、「遺影の生前撮影」として、プランを設けている写真家・写真館もあります。
「写真家・写真館に頼むほどではない」という場合は、自分で撮った写真のなかから、「これを使って」と指定しておくとよいでしょう。
なお現在の遺影は、「笑顔で」「その人らしい服を着ているもの」が選ばれやすくなっています。また、他の人と一緒に写っていてもある程度加工で対応してもらえます。
ちなみに今は、「プリントアウトされた写真」だけでなく、「iPhoneなどに保存されている写真」からも遺影を作ることができる場合もあります。ただ、迷ったのならプリントアウトした状態の写真を用意しておくのが無難です。
「葬儀の事前準備」は、残していくことになるご家族の負担を軽減するために行うものです。
ただ葬儀の事前準備を行うことで、「残していく側」も、「自分らしい葬儀ができる」「自分の人生を改めて見直すことができる」というメリットを得られます。
ご家族と、ご自分のために、葬儀の事前準備に取り掛かってみてはいかがでしょうか。